PCG 2017/2 – Simplified transfer pricing record-keeping options(簡易的な移転価格文書整備オプション)

簡易的な移転価格文書整備オプションについて(PCG 2017/2)

ガイドラインの概要

概要

オーストラリアにおいてはクロス・ボーダー取引(国を跨いだ商取引等|International dealings)については、取引条件が第三者間取引条件(Arm’s length conditions)となっていない場合、第三者間取引条件に引き直した所得計算が求められる(歪んだ条件によって得た税務上の利益を取り消すことが求められる/Division 815 of the Income Tax Assessment Act 1997)。

そのため、クロス・ボーダー取引に関しては、(税務調整を行わない場合)それが第三者間取引条件に基づき実施されたものであることを証する記録を税務申告書提出期限までに備え置くことが求められる(Section 284-255 Documentation Requirements of Taxation Administration Act 1953)。

しかし、すべてのクロス・ボーダー取引に対してまですべて文書化を求めるとすれば、税務リスクに見合わない負担を納税者に対して求めることとなり適切ではない。そこで、特定の取引に関して簡易的な移転価格文書整備オプション(7つのオプション)を用意したもの。なお、オプションを選択可能であるかについては本PCGに従って納税者が自己の責任で評価する。また、適用対象は会社、トラスト、パートナーシップ。

対象となる納税者

条件を充足する会社、トラスト及びパートナーシップ。

適用手続

IDS (International Dealings Schedule)又はCbC Statements (Country-by-country statements)に記載。

これらの手続き実施により、納税者として移転価格ルールの順守と簡易移転価格文書整備オプションの適用可能性を評価したことが確認されることとなる。なお、当該オプションを適用する場合でも、一般的な取引記録整備に係る要求は充足する必要があることに留意する(Section 262A of the Income Tax Assessment Act 1936)。

簡易移転価格文書整備オプション(7つのオプション)

  1. 少額納税者(Small taxpayers)
  2. 卸売業者(Distributors)
  3. 低付加価値グループ内サービス(Low-value adding intra-group services)
  4. 海外借入(Low-level inbound loans)
  5. 重要性の低い取引(Materiality)
  6. テクニカル・サービス(Technical services)
  7. 海外貸付(Low-level outbound loans)

オプションの適用要件

用語の定義

用語の定義

用語定義
PCGPractical Compliance Guideline|税法を順守する際の実務的なアプローチとしてATOが公表するもの。
オーストラリア連結グループAustralian economic group|ある事業体とその事業体がオーストラリア会計基準AASB10に基づき連結財務諸表に含めることを要求されるすべての事業体で構成されるグループをいう。
ターンオーバーTurnover|通常の事業活動において稼得する収入をいう。売上、賃貸収入、配当、分配金収入、金利収入等が含まれ得るが、納税者の事業活動の種類に依る(例えば、賃貸業を営む事業体以外については、賃貸収入を含めることは適切でない場合がある)。申告書の「the total income」欄に記載する金額を用いることが考えられる。
継続的な課税損失Sustained losses|当期を含めて3期連続して課税損失である状況をいう。
リストラクチャリングRestructuring|資産、機能、またはリスクが納税者と国際関連者又はあなたの海外支店との間で移転される取決めをいう。詳細についてはhttps://www.ato.gov.au/law/view/document?LocID=%22TXR%2FTR20111%2FNAT%2FATO%22&PiT=99991231235958定義を参照(Income tax: application of the transfer pricing provisions to business restructuring by multinational enterprises)。
卸売業者Distributor|税務申告書において納税者の主たる事業としてANZSIC(オーストラリア・ニュージーランド標準産業分類)の”Wholesale Trade code”を選択している場合の当該納税者をいう。主に大幅な加工を加えることなく商品の購入や販売、手数料ベースでの購入及び販売に主に従事する者が該当する。
国際関連者取引International related-party dealings|国際関連者との国際的な商取引又は金融取引等をいう。
国際関連者International related-party| a) 海外事業体等(個人を含む。以下、同様)が直接又は間接に納税者の経営、支配又は資本に参加している場合の当該事業体等、b) 納税者が直接又は間接に海外事業体等の経営、支配又は資本に参加している場合の当該事業体等、及びc) 共通支配下(納税者と直接の関係はないが共通の海外事業体等-究極親会社等-に支配されていることをいう)の海外事業体等をいう。
税前比率Profit-before-tax ratio|「(total income – total expenses) ÷ total income」として算定する。税務申告書におけるTotal income及びTotal expensesを用いる。
低付加価値グループ内サービスLow-value adding intra-group services|補助的な性格のサービス、主たる事業の中核ではないサービスをいい、「特定サービス取引」を含まない。詳細の定義についてはOECDによる移転価格ガイドライン(https://www.oecd-ilibrary.org/taxation/oecd-transfer-pricing-guidelines-for-multinational-enterprises-and-tax-administrations-2010_tpg-2010-en)及び法人税法(815-135 of the ITAA 1997)参照。
特定サービスに係る関連者取引Specified service related-party dealings|関連者とのすべてのサービス(但し、低付加価値グループ内サービスを除く)をいう。
グループ内サービス考慮前税引前利益Pre-intra-group service charges profit| グループ内サービスに関して認識した費用を除いた税前利益をいい、「Total income – ( total expenses – intra-group services expenses)」として算定する. 税務申告書におけるTotal income及びTotal expensesを用いる。なお、低付加価値グループ内サービス等に係るオプション検討時に計算されるが、差し引く「intra-group services expenses」は(低付加価値グループ内サービスだけでなく)すべてのグループ内サービスとする必要があることに留意する。
コスト・マークアップ率a mark-up on costs|関連サービスの提供コストに対して乗せる利益の比率。「コスト」には、直接費のみならず間接費も含めたすべての関連するコストを集計する。但し、「パススルー・コスト」は集計対象外。パススルー・コストとは、サービス提供者が、仲介者としてサービスの提供を単に仲介するだけで、実際にサービス自体を提供していない場合の費用をいう。
総クロス・ボーダー融資取引残高Combined cross-border loan balance|海外貸付及び海外借入の年間平均残高合計額(無利息融資を含む/IDS label 11a, 11b)。海外拠点が支店である場合、当該支店との内部融資取引の年間平均残高合計額(IDS label 18aI, 18aK, 18bI, 18bK)。
融資Loan| Division 974 of ITAA 1997において負債に分類される金融商品をいう(https://www.ato.gov.au/law/view/document?DocID=PAC%2F19970038%2F974-20&PiT=99991231235958&document=document, https://www.ato.gov.au/businesses-and-organisations/corporate-tax-measures-and-assurance/debt-and-equity-tests/in-detail/guides/debt-and-equity-tests-guide-to-the-debt-and-equity-tests/part-a-explaining-the-tests-for-debt-and-equity-interests/tests-for-debt-and-equity)。
総国際関連者間取引Total international related-party dealings|国際関連者との次の取引(2018IDSのラベル名にて記載)の合計額をいう(但し、融資残高を除く);tangible property of a revenue nature (label 5), royalties or licence fees (label 6a and 6b), rent or leasing (label 7), services (labels 8a to 8k), derivatives (label 9), financial dealings excluding loan balances (label 11 excluding 11a and 11b), other revenue dealings (label 12), branch operation dealings excluding loan balances. なお、IDSの提出要否に係る閾値の計算においては融資残高を含めてA$2milの判定を行うことに留意する。また、テクニカル・サービスに関するオプション適用を検討する際には(国際関連者のみならず)オーストラリア国内におけるすべて事業体との取引を考慮する必要があることに留意する。
テクニカル・サービスTechnical services|エンジニアリング、建築、工業デザインに関連する活動に対して、関連する専門技術を持つ者が提供する助言、支援またはサポートをいう。なお、以下に関する助言又は支援に関するものを除く;知的財産(ノウハウ、プロセス、システムその他類似の無形資産又は権利)に関するもの、商品、サービス(金融サービスを含む)又は資金の提供又は調達に関するもの、顧客及び潜在的顧客に関する、マーケティングその他の関連する活動に関するもの。

1. 少額納税者(Samll taxpayer)

  1. 「オーストラリア連結グループ」の年間「ターンオーバー」がA$50mil未満であること
  2. 以下のすべての条件を満たすこと
    • 「継続的な課税損失」ポジションを有さないこと
    • 申告対象年度に関し「リストラクチャリング」を実施していないこと
    • ロイヤリティ、ライセンス・フィー及び研究開発に関する関連者取引(提供側、被提供側のいずれの取引も対象)の年間取引合計約がA$500k以下であること
    • 「特定サービスに係る関連者取引」(提供側、被提供側のいずれの取引も対象)の年間取引合計額が年間ターンオーバーの15%以下であること
    • 納税者が「卸売業者」に該当しないこと
    • 移転価格ルールの順守に関する評価を行っていること

なお、以下の取引は本オプションの対象外となる。

  • ロイヤリティ、ライセンス・フィー及び研究開発に関する国際関連者取引
  • 金融取引に関する国際関連者取引(貸付、借入、保証等)及びそれに関連するチャージ
  • 資本性取引(Capital nature)に係る国際関連者取引

2. 卸売業者(Distributor)

  1. 納税者が卸売業者であること
  2. オーストラリア連結グループの年間ターンオーバーがA$50mil未満であること
  3. 以下のすべての条件を満たすこと
    • 「税前比率」が3%未満であること
    • 申告対象年度に関しリストラクチャリングを実施していないこと
    • ロイヤリティ、ライセンス・フィー及び研究開発に関する関連者取引(提供側、被提供側のいずれの取引も対象)の年間取引合計約がA$500k以下であること
    • 移転価格ルールの順守に関する評価を行っていること

なお、以下の取引は本オプションの対象外となる。

  • ロイヤリティ、ライセンス・フィー及び研究開発に関する国際関連者取引
  • 金融取引に関する国際関連者取引(貸付、借入、保証等)及びそれに関連するチャージ
  • 資本性取引(Capital nature)に係る国際関連者取引

3. 低付加価値グループ内サービス(Low-value adding intra-group services)

  • 国際関連者との低付加価値グループ内サービスの価値が合計でA$2mil以下であること。又は、
  • 国際関連者との低付加価値グループ内サービスの価値が合計でA$2mil超であるが、以下のすべての条件を満たすこと
    • 提供した/受けた当該サービスが、オーストラリア連結グループの総収益(total revenue)/総費用(total expense)の15%以下であること
    • 提供を受けた当該サービスが、オーストラリア連結グループの「グループ内サービス考慮前税引前利益」の25%以下であること
    • 提供した/受けた当該サービスに係る「コスト・マークアップ率」が、5%以上/5%以下であること
    • 継続的な課税損失ポジションを有さないこと
    • 申告対象年度に関し「リストラクチャリング」を実施していないこと
    • 移転価格ルールの順守に関する評価を行っていること

4. 海外借入(Low-level inbound loans)

  1. オーストラリア連結グループにおける「総クロス・ボーダー融資取引残高」が、年間を通じてA$50mil以下であること(注:貸付だけではなく、借入も含めて、残高を集計する必要がある)
  2. 以下のすべての条件を満たすこと
    • 各借入に係る金利率が5.81%以下(注:閾値となる金利率は毎年異なる)であること
    • 実際に借入によって調達する資金が豪ドルであること(ローン契約によって借入が豪ドルであることを確認できる必要がある)
    • 融資に関連する費用が豪ドルで支払われること
    • 継続的な課税損失ポジションを有さないこと
    • 申告対象年度に関しリストラクチャリングを実施していないこと
    • 移転価格ルールの順守に関する評価を行っていること

なお、以下の取引は本オプションの対象外となる。

  • 海外貸付取引
  • 金融取引に関する国際関連者取引(貸付、借入、保証等)及びそれに関連するチャージ

5. 重要性の低い取引(Materiality)

  1. 「総国際関連者間取引」の年間取引額がオーストラリア連結グループの年間ターンオーバーの2.5%以下であること
  2. 以下のすべての条件を満たすこと
    • オーストラリア連結グループの年間ターンオーバーがA$100mil以下であること
    • ロイヤリティ、ライセンス・フィー及び研究開発に関する関連者取引(提供側、被提供側のいずれの取引も対象)の年間取引合計約がA$500k以下であること
    • 継続的な課税損失ポジションを有さないこと
    • 申告対象年度に関しリストラクチャリングを実施していないこと
    • 移転価格ルールの順守に関する評価を行っていること

なお、以下の取引は本オプションの対象外となる。

  • ロイヤリティ、ライセンス・フィー及び研究開発に関する国際関連者取引
  • 金融取引に関する国際関連者取引(貸付、借入、保証等)及びそれに関連するチャージ
  • 資本性取引(Capital nature)に係る国際関連者取引

6. テクニカル・サービス(Technical services)

  1. 「テクニカル・サービス」に係る支出に対応して稼得する年間収入額(注:国際関連者との取引に限られないことに留意)が、オーストラリア連結グループの総国際関連者間取引額の50%以下であること
  2. 以下のすべての条件を満たすこと
    • 提供した/受けた当該サービスに係る「コスト・マークアップ率」が、10%以上/10%以下であること
    • 継続的な課税損失ポジションを有さないこと
    • 申告対象年度に関しリストラクチャリングを実施していないこと
    • 移転価格ルールの順守に関する評価を行っていること

なお、以下の取引は本オプションの対象外となる。

  • テクニカル・サービス以外に関する国際関連者間取引

7. 海外貸付(Low-level outbound loans)

  1. オーストラリア連結グループにおける総クロス・ボーダー融資取引残高が、年間を通じてA$50mil以下であること(注:貸付だけではなく、借入も含めて、絶対額で残高を集計する必要がある)
  2. 以下のすべての条件を満たすこと
    • 各貸付に係る金利率が5.81%以上(注:閾値となる金利率は毎年異なる)であること
    • 実際に貸付によって提供する資金が豪ドルであること(ローン契約によって借入が豪ドルであることを確認できる必要がある)
    • 融資に関連する費用が豪ドルで支払われること
    • 継続的な課税損失ポジションを有さないこと
    • 申告対象年度に関しリストラクチャリングを実施していないこと
    • 移転価格ルールの順守に関する評価を行っていること

なお、以下の取引は本オプションの対象外となる。

  • 海外借入取引
  • 金融取引に関する国際関連者取引(貸付、借入、保証等)及びそれに関連するチャージ

Resources

> Simplifying transfer pricing record-keeping

>PCG 2017/2 – Simplified transfer pricing record-keeping options

>Subdivision 284-E (the Taxation Administration Act 1953) – Legal database – View: Principal legislation: SECTION 284-255

>The legal database > 815-B – Arm’s length principle for cross-border conditions – Legal database

>International dealings schedule instructions 2024

>OECD Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations 2022

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です